【85dBは嘘】音楽は何dBで聴くべき?

2026年6月21日 (更新: 2026年7月8日)
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皆さんは何dBで音楽を聴いていますか?

私はとある動画で85dBが良いと聞いたことがありましたが、耳の中の音圧を計測するすべがなかったのでまあ85dBくらいで普段聴いているんだろうと思っていました。

先日、Sony WF-1000XM5を入手して

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アプリの機能で現在流れている曲の音圧が分かるんです。それがこちら

低くね?

これでも結構大きめだと思ってました。で、この表示が85dBになるまで音圧を上げていくと...

耳が壊れるわ!

いやこれ、絶対85dBが理想はおかしいと思い、音響界でもトップレベルで権威のある専門書

『Sound Reproduction』

『Loudspeaker and Headphone Handbook』

『Acoustics Sound Fields and Transducers』

から、本当に85dBは音楽鑑賞に適した音圧なのか音楽鑑賞に適した音圧は何dBかを調べましたので、共有させていただきたいと思います。

人間が好む音圧は85dBではない

『Sound Reproduction』48ページにはこのような記述があります。

【日本語訳】

「最近の調査によると、一般的なテレビのダイアログ(セリフ)は、典型的な家庭環境においては平均58 dBAで満足のいくレベルとなるが、ホームシアター環境では65 dBAとなることが判明した。ホームシアターにおいて、異なるリスナーが表明した好みのレベルは約55から75 dBAの範囲に及んだ(Benjamin, 2004)。多種多様な音源素材を用いて、Dashら(2012)は、好まれる音量レベルの中央値が62 dB SPLL(ITU-R BS.1770の重み付けを使用。B特性またはC特性で近似可能)であると結論づけた。好まれる音量の範囲は52から71 dB SPLLであった。」

さらに、48ページから49ページにかけてこのような記述もあります。

【日本語訳】(Cinemas are...から)

「映画館は0 dBの基準を85 dB(Cウェイト)としてキャリブレーションされており、サウンドトラックの20 dBのヘッドルームを考慮すると、フロントの各チャンネルで105 dBのピーク音圧レベルが許容される。映画館において、これは非常に大きな音になり得る。低域効果(LFE)チャンネルの出力はさらに高くなる可能性があるため、この合わさった音の持続的なレベルが一部の人々にとって不快であることは驚くべきことではない。」

【日本語訳】(...such a theater.まで)

「これと同じキャリブレーションプロセスが、多くのホームシアターの設置でも使用されている。多く(あるいは大多数)のリスナーは、「0」のボリューム設定で再生される映画を、不快なほど大きすぎると感じている。私が担当するCEDIA(カスタム電子設計・設置協会)のクラスに参加するホームシアターの設計者や設置業者は、彼らの顧客が映画を−10 dBかそれ以下の音量で再生していると日常的に報告していた。これは電力において10分の1への減少であり、そうしたシアターに設備を導入する際の重大なコスト要因となる。」

これらから何が言えるか

これらの記述から、音響物理学と人間の心理音響学的な事実に基づくならば、85 dBという過大な音量設定は聴覚的苦痛をもたらすだけであり、リスナーが自らの耳を守り、かつ快適に音楽を聴くためにボリュームを-10 dB以下(55〜75 dBの範囲)に下げる行為こそが、科学的に最も合理的な判断であると言えます。

音量を下げるとS/Nが不利?

65dBほどの音量で音楽を再生すると部屋の環境音を30dBとして、信号対雑音比(S/N)が35dBしかないから音質が悪いと主張されることがあります。しかし、その信号対雑音比35dBは不十分なのでしょうか。

『Loudspeaker and Headphone Handbook』450ページには次の記述があります。

【日本語訳】(optimum intelligibility.まで)

「屋内および屋外の両システムにおいて音声の明瞭度に影響を与えるもう一つの主要な要因は、周囲の背景ノイズレベルによって生じるマスキングである。これは音声の信号対雑音比(S/N比)を低下させる。理想的には、最適な明瞭度を確保するために25 dBの信号対雑音比が必要とされる。」

さらに、『Acoustics Sound Fields and Transducers』477ページには次の記述があります。

【日本語訳】(For speech...から)

「スピーチ(音声)の場合、クレストファクター(最大ピーク音圧レベルと平均RMS音圧レベルの差)は約13 dBである。音楽の場合は約20 dBである。」

これらから何が言えるか

これらの記述から、35dBの信号対雑音比が確保されているという事実は、「音楽のディテールとダイナミクスを認知するために、十分な信号対雑音比である」ということを示しています。

85dBは聴覚上害がないのか

85dBでも聴覚上害がないと主張される際、WHOや各機関が公表している

このような表が根拠となります。

しかしここに大きな落とし穴があります。

『Sound Reproduction』443-444ページには次の記述があります。

【日本語訳】

「既存の国内および国際基準において考慮されている唯一の基準は、言葉を理解する能力の保存であるということを知っておくことが不可欠です。OSHAやNIOSHなどの職業的騒音ばく露基準は、製造業やその他の産業労働者のために作成されたものであり、その目標は聴力損失を防ぐことではなく、労働寿命の終わりに1メートルの距離での会話が可能である程度に(聴力を)保存することでした。重大な種類の永久的なダメージは避けられません。ハイファイな聴力、つまり批判的聴取能力は保存されないのです。」

つまり何が言えるかというと、WHOなどが出している騒音ばく露基準は

「難聴にならないための目安」であって、「絶対に耳が悪くならないと保証するものではない」ということです。

ノイズキャンセリングで解決?

屋外など、騒音環境下ではノイズキャンセリングは非常に有用です。しかし、静かな屋内で信号対雑音比を稼ぐためにノイズキャンセリングを使うのは逆効果でしょう。ノイズキャンセリングには、多かれ少なかれ可聴なホワイトノイズが生じます。それはほとんどの場合で部屋のノイズ-ノイズキャンセリングなしのパッシブ遮音よりも大きくなるでしょう。

まとめ

85dBで音楽を聴くというのは、音響的にメリットが小さく、むしろ聴覚を不可逆的に破壊しうる行為です。客観的な適正音量の中央値は62dBであり、一般的な暗騒音30dBの室内において65dBで再生すれば、音楽のディテールを完全に認識するために必要な信号対雑音比25dBを大幅に上回る35dBのマージンが確保されます。国際的な騒音ばく露基準の85dBは日常会話を辛うじて維持するための極めて低い防衛ラインに過ぎず、ハイファイな聴取能力は確実に破壊されうります。静かな室内でのノイズキャンセリングの常用も、機器の残留ノイズにより信号対雑音比を悪化させる場合が多いです。最高の音質を享受するためには、部屋の雑音に合わせて25dB以上の信号対雑音比がとれる55〜75dBの適正音量で再生し、自らの耳を不可逆的な破壊から守り抜くことであると考えます。

2026/07/08 訂正

65dBでSNが十分という記述がありましたが、その根拠となっているクレストファクターは平均音圧と最大音圧の差であるため、平均から小さくなる側の音圧を考慮しません。すなわち、ダイナミックレンジの広い曲において、65dBでは曲に含まれる小さい音が暗騒音によってかき消されてしまう可能性があります。なので、耳が健康でいられる75dB付近までは音圧を上げたほうが合理的となります。

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TALK

コメント (11件)

Quadro403
Quadro403 2026年7月7日
画像に表示されている68dbってどのような測定方法で表示されているんでしょうか?
アプリ内部だけで実際に流れている音圧レベルを測定できるとは到底思えないのですが。。。

使用されている画像の元ネタはおそらくFrieve-A氏ですよね。
そのFrieve-A氏が以下の動画でイヤホンの測定方法を解説しています。
要約すると測定用マイクの先端に熱収縮チューブを取り付けるという手法です。
https://youtu.be/U7-EuT5AFeA?t=504

ただしこれだけでは音圧レベルは測定できないので、別途騒音計を入手し、REW内でホワイトノイズ等をスピーカーから流し、騒音計の数値を見ながら測定用マイクから録音される音圧レベルの簡易校正を行うと良いです。

正確な測定を行いたい場合は以下のような個別校正ファイル付きのものを選ぶとよいでしょう。(ただし上記で書いた音圧レベルの別途校正は必要です)
https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/290214/

62db SPLという音圧はポップスやEDMのようなもともと音圧が高く制作された楽曲では十分かもしれませんが、クラシックやジャズのようなダイナミックレンジが重要な楽曲では小さい音がかなり聞き取りづらいと思います。
Quadro403
Quadro403 2026年7月7日
@Quadro403 後半誤字
62db SPL✕ → 68db SPL◯
Quadro403
Quadro403 2026年7月7日
@Quadro403 記事の本題である、85dbを常用すべきでないという点には同意ですね。
ただし、音楽制作時のミックスやマスタリングなどの作業ではこのあたりの音圧で視聴しながら調整することは割と一般的で、常識外れな音圧とまでは言えないです。
ミキシングやマスタリングの音量バランスを正確に判断するための国際的な基準音量とされているのが85dbです。
これにはフレッチャー・マンソン曲線という理論が関係していますので、興味があれば調べてみると良いと思いますよ。
おおさか
おおさか 2026年7月7日
@Quadro403 音圧はXM5のフィードバックマイクを使い測定されているのでかなり正確かと思います。
おおさか
おおさか 2026年7月7日
@Quadro403 測定のリテラシーがある方なら私の最初の記事で紹介しているEO-IA500/IG955/IC100を試してみてください。
マジで音がいいので。
Quadro403
Quadro403 2026年7月8日
@おおさか なんと、耳の内側にもマイクが仕込まれている製品だったのですね。
しかも、よく調べると出荷時の校正もしっかりと行われているようで…
すみません、完全に私の知識不足でした。

過去レビューも拝見しました。
SamsungのEOシリーズ、価格の割に測定結果が優秀で興味深いですね。
(最もコスパ良好そうに見えるIA500がAmazonで売り切れ中なのが非常に残念ですが…)
近々試してみたいと思います。

個人的には、イヤホンの中ではTRUTHEAR x Crinacle ZERO:REDが手放しでおすすめしやすいと思ってます。
(これもFrieve-A氏がかなり詳細な測定レビューを出しています)

ただ、記事の本題である85dBの点に関しては、やはりフルオーケストラなどの音数が多い場合など、ジャンルによっては細部まで聴き取るためにどうしても必要な場面があるな、と感じています。

もちろん日常で長時間連続85dBは常用すべきではないですし、大半の人は耐えられないと思いますが、短時間の間に本気で聴取/分析する場合はこのくらいの音圧がどうしても必要なことがあるんですよね。
Quadro403
Quadro403 2026年7月8日
@Quadro403 あと今思ったのですが、スピーカーから再生する際の音圧とイヤホンを耳に挿入して再生する際の音圧は分けて考えたほうが良いかもしれません。

カナル型イヤホンは適切なイヤーピースを使用していれば、耳栓形状のパッシブ遮音だけで周囲の中高域ノイズを20〜30dB程度減衰させることがRTINGS等のいくつかの測定で示されているようです。

私はイヤホン、ヘッドホンの装着感が苦手で自宅では専らスピーカーで視聴することが多く、測定や補正も主にスピーカーで行ってきたので、私の意見はスピーカー再生での状況に偏りすぎていたかもしれません。
いぎり/ぎりぎりch
いぎり/ぎりぎりch 2026年6月22日
85dbって道路の走行音や地下鉄に該当するのでかなりやばいっすよw1時間/週で確か耳が逝くレベルだった気がするw
Quadro403
Quadro403 2026年7月7日
@いぎり/ぎりぎりch それは間違いですね。

もし本当に「週1時間、85dB相当の騒音(地下鉄車内や幹線道路沿いの音量)に晒されるだけで難聴になる」のであれば、都市部で生活し、通勤・通学で日常的にこうした騒音環境に身を置いている人々の大半が重度の難聴になっているはずですが、そのような統計的事実はありません。

WHOはセーフリスニングの目安として、80 dBは週40時間まで、90 dBは週4時間までと説明しています。
つまり85 dBはその中間で、単純な3 dB交換則で考えるとおおむね週12〜13時間前後が一つの目安になります。

個人差を考慮してもそこまでの悪影響に至るとは考えにくいです。

音楽制作などといった分析しながら調整する場面では85dbを基準に視聴することも多いです。
いぎり/ぎりぎりch
いぎり/ぎりぎりch 2026年7月7日
@Quadro403 今読み返して思いました、たしかに1時間じゃなくて40ですねw
吉田製作所【管理人】
たぶん、音質を気にし過ぎないのが一番音質が良い気がします
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